生成AIの普及に続き、AIがデジタル空間だけでなく、 ロボットやドローン、自動運転車、産業機械などを通じて 現実世界で認識・判断・行動する Physical AI(フィジカルAI)が注目されています。
Physical AIによって、ロボットは単にプログラムされた動作を 繰り返す存在から、カメラや各種センサーから取得した情報をAIが解析し、 周囲の状況に応じて判断・行動するシステムへと発展していきます。
一方で、Physical AIの普及によって、 新しいセキュリティ課題も生まれます。
「AIが現実世界から取得したデータを、本当に信用できるのか」 という問題です。
AIモデル自体が正常でも、 センサーから取得したデータが偽装されていたり、 通信途中で改ざんされていたり、 想定していないデバイスから送られた情報だったりすれば、 AIの判断へ影響する可能性があります。
Physical AI時代にはAIモデルだけでなく、 デバイス、データ、通信、AI、そして物理的な動作までを 一つの信頼の連鎖として捉えること が重要になります。
- Physical AI(フィジカルAI)とは何か
- 生成AIとPhysical AIの違い
- Physical AIを構成する5つの要素
- Physical AIの代表的な活用分野
- Physical AI時代に生まれるセキュリティ課題
- 暗号化だけでは十分ではない理由
- Trust Infrastructureという考え方
- シーズが研究開発するPhysical AI関連技術
Physical AI(フィジカルAI)とは?
Physical AIとは、 AIがカメラやセンサーなどを通じて現実世界の情報を認識し、 その情報をもとに判断して、 ロボットや機械などを通じて現実世界へ作用する技術領域 です。
一般的な生成AIでは、 ユーザーがテキストや画像などを入力し、 AIが文章や画像などのデジタル情報を生成します。
一方、Physical AIでは、 現実世界から取得した情報をもとにAIが判断し、 その結果が機械の制御へつながります。
例えば自律走行ロボットであれば、 カメラやLiDAR、距離センサーなどから周囲の情報を取得し、 AIが人や障害物、移動可能な経路などを判断します。
そして、その判断結果をもとにモーターなどを制御し、 実際に移動します。
生成AIとPhysical AIの違い
生成AIとPhysical AIの違いを整理すると、 次のようになります。
| 項目 | 生成AI | Physical AI |
|---|---|---|
| 主な入力 | テキスト、画像、音声など | カメラ、センサー、位置情報、機器情報など |
| 主な処理 | 情報の解析・生成 | 現実世界の認識・判断・制御 |
| 主な出力 | テキスト、画像、音声など | 判断結果やロボット・機械への制御 |
| 活用例 | チャット、文章生成、画像生成など | ロボット、ドローン、自動運転、産業機械など |
| セキュリティ上の影響 | 情報漏えい、誤情報など | 情報リスクに加えて物理動作へ影響する可能性 |
特に重要なのが、 AIの出力が現実世界の動作につながる点です。
AIの判断をもとにロボットアームや移動機構を制御します。
周囲の状況を認識し、走行や停止などの判断につなげます。
位置や周囲の情報をもとに飛行や経路を制御します。
AIの認識・判断を設備やロボットの制御へ反映します。
「AIモデルが安全か」だけではなく、 AIが判断に利用する現実世界由来のデータを どこまで検証できるのか という観点が重要になります。
Physical AIを構成する5つの要素
Physical AIは、大きく次の5つの要素から 構成されると考えることができます。
1. センサー
Physical AIが現実世界を認識するための 「目」や「耳」に相当します。
- カメラ
- LiDAR
- 温度センサー
- 圧力センサー
- 加速度センサー
- GNSS・GPSなどの測位機器
- マイク
Physical AIはこれらのデバイスから 現実世界のデータを取得します。
2. 通信
取得したデータをAIや他のデバイスへ伝えるためには 通信が必要です。
Physical AIではクラウドだけでなく、 エッジコンピューティングやデバイス間通信など、 さまざまな場所でデータがやり取りされます。
3. AI
取得したデータを解析し、 「何が起きているのか」 「次にどのような処理・行動が必要なのか」 などを判断します。
4. 制御
AIの判断結果を、 モーターやアクチュエーターなどの 機械制御へ反映します。
5. 物理動作
最終的にロボットや機械が現実世界で動作します。
この流れのどこかで信頼性が損なわれれば、 AIの判断や最終的な物理動作へ 影響する可能性があります。
Physical AIはどのような分野で使われるのか
Physical AIは、 現実世界を認識しながらAIが判断・制御を行う さまざまな分野での活用が想定されます。
カメラや各種センサーを使って周囲を認識しながら、 人間と同じ空間で行動します。 製造、物流、店舗、オフィス、介護など 幅広い用途が考えられます。
AIとロボットを組み合わせ、 製造状況に応じた判断や異常検知などへ活用できます。
カメラやLiDARなどから情報を取得し、 周囲の車両や歩行者、道路状況などを リアルタイムに認識・判断します。
位置情報、映像、機体情報などを利用しながら飛行します。 複数機が自律連携する環境では、 デバイス間通信の信頼性も重要になります。
倉庫内の搬送ロボットや自動仕分けシステムなどでも Physical AIの活用が考えられます。
Physical AI時代に生まれる新しいセキュリティ課題
Physical AIの普及によって、 従来のITシステムとは異なる セキュリティ上の論点が生まれます。
「AIが受け取ったデータを、どこまで信頼できるのか」 を考える必要があります。
例えば、ある自律走行ロボットがセンサーから 「前方に障害物は存在しない」という情報を 受け取ったとします。
しかし、そのセンサーデータが攻撃者によって 偽装・改ざんされていた場合、 AIモデル自体が正常に動作していても、 現実の状況とは異なる入力に基づいて 判断する可能性があります。
これはAIモデルそのものを保護するだけでは 解決できない問題です。
「データを暗号化すれば安全」ではない理由
通信セキュリティにおいて暗号化は非常に重要です。 しかしPhysical AIでは、 暗号化だけですべてのセキュリティ課題を 解決できるわけではありません。
例えば通信が暗号化されていても、 正規デバイス自体が侵害されていたり、 暗号化される前のデータが不正に変更されていたりすれば、 AIが受け取る情報の信頼性に問題が生じる可能性があります。
機密性。許可されていない主体から データの内容を保護します。
完全性。データが意図しない形で 変更されていないことを確認します。
デバイスやデータの生成元などについて 想定した主体に紐づくことを検証します。
Physical AIに必要な「Trust Infrastructure」とは
株式会社シーズでは、 Physical AI時代に必要になる信頼基盤を Trust Infrastructure として捉えています。
単一のセキュリティ技術だけでPhysical AIを保護するのではなく、 デバイスから最終的な物理動作までの 信頼関係を横断的に考えるというアプローチです。
- どのデバイスに紐づくデータなのか
- データが途中で改ざんされていないか
- データの欠損や順序変更がないか
- 保存されたデータが適切に保護されているか
- AIがどのような入力データを利用して判断したのか
- AIからの制御命令が適切に伝達されたか
Physical AIでは最終的なAIの判断だけを見るのではなく、 判断に至るまでのデータチェーン全体を 検証できる状態にすること が重要になります。
シーズが研究開発するPhysical AIのTrust Infrastructure
株式会社シーズでは、 Physical AI時代のTrust Infrastructureを構成する技術として、 複数の技術を研究開発しています。
データを連続的なハッシュ構造によって関連付け、 データの完全性や連続性を検証するための技術です。 Physical AIで継続的に発生するデータの 改ざん検知などへの活用を目指します。
半導体の製造過程で生じる物理的な個体差を利用し、 デバイス固有の識別・認証へ活用する技術です。 Device Trustの起点としての活用を目指します。
保存されるデータを保護するための技術です。 通信中だけではなく、 デバイスやエッジ環境に保存されるデータの 保護への活用を目指します。
各AIセルが自律的に状況を把握し、 判断・学習する分散型AI技術です。 Physical AI環境における可用性や 耐障害性などの向上を目指します。
Physical AI時代には「AIを守る」から「AIが信じるものを守る」へ
AIセキュリティでは、 AIモデルそのものへの攻撃や 学習データへの攻撃なども重要な論点です。
Physical AIでは、 さらにAIへ入力される現実世界由来のデータや、 そのデータを生成・伝送するデバイスや通信経路も 考える必要があります。
AIは現実世界を直接見ているわけではありません。 カメラやセンサーなどによって取得・デジタル化された データを処理しています。
「AIそのものを守る」だけではなく、 「AIが判断に利用するデバイスやデータを保護・検証する」 という考え方が重要になります。
Physical AIの普及によってセキュリティはどう変わるのか
ロボット、ドローン、自動運転、 スマートファクトリーなどの普及によって、 AIが現実世界から取得・利用するデータは さらに増えていくと考えられます。
同時に、データやデバイスについて 次のような点を検証する重要性も高まります。
- どのデバイスに紐づくデータなのか
- デバイスを適切に識別・認証できるか
- データが途中で改ざんされていないか
- AIが利用するデータをどこまで検証できるか
- AIから機械への制御命令が保護されているか
Physical AIでは、 AIの性能向上とセキュリティの強化を 切り離して考えることが難しくなります。
まとめ|Physical AIでは「AIが何を信じて判断しているのか」が重要になる
Physical AIは、 AIが現実世界を認識し、判断し、 ロボットや機械などを通じて 現実世界へ作用する技術領域です。
生成AIとの大きな違いの一つは、 AIによる判断が機械の制御や 物理的な動作へつながることです。
- デバイスを適切に識別・認証できるか
- センサーデータの生成元を確認できるか
- 通信途中でデータが改ざんされていないか
- 保存データが適切に保護されているか
- AIがどのような入力データを利用しているか
- AIからの制御命令が適切に伝達されているか
株式会社シーズでは、 Physical AI時代に必要となるこの信頼基盤を Trust Infrastructure として捉え、 ハッシュチェーン、チップフィンガープリント、 スクランブルメモリ、自律分散AIセルなどの 技術開発を進めています。
「そのAIが何を信じて判断しているのか」 Physical AIでは、AIと現実世界をつなぐデータの信頼性が重要になります。
Physical AIに関するよくある質問
Physical AIとは何ですか?
Physical AIとは、 AIがカメラやセンサーなどから現実世界の情報を取得・認識し、 その情報をもとに判断して、 ロボットや機械などを通じて 現実世界へ作用する技術領域です。
Physical AIと生成AIの違いは何ですか?
生成AIは主にテキスト、画像、音声などの デジタルコンテンツを生成します。 Physical AIではAIの判断が ロボットや機械の制御へつながり、 現実世界へ物理的な影響を与える可能性がある点が 大きな違いの一つです。
Physical AIにはどのようなセキュリティが必要ですか?
AIモデルの保護だけでなく、 デバイスの識別・認証、 データの生成元や完全性の検証、 通信データの保護、 保存データの保護、 制御命令の完全性などを システム全体で考える必要があります。
なぜPhysical AIではデータの真正性が重要なのですか?
AIは入力されたデータをもとに判断するためです。 センサーデータなどが偽装・改ざんされていれば、 AIモデル自体が正常でも、 現実の状況とは異なる入力に基づいて 判断する可能性があります。
Physical AIでは暗号化だけでは不十分なのですか?
暗号化は通信内容の機密性を確保する重要な技術ですが、 それだけですべての問題を解決するわけではありません。 デバイスの認証、データの完全性、 生成元などについても検証する必要があります。
Trust Infrastructureとは何ですか?
Physical AIを構成する デバイス、データ、通信、AI、 制御・物理動作までの信頼性を 横断的に支える基盤として シーズが捉えている考え方です。
Physical AIはどのような分野で利用されますか?
ヒューマノイド、産業ロボット、ドローン、 自動運転、物流ロボット、 スマートファクトリーなど、 AIが現実世界を認識して判断・制御する さまざまな分野での活用が想定されます。




























